好きな時間

朝、まだ人気もまばらで空気も澄んでいる時間、私は白い息を吐きながらひたすら走るのが好きだ。
 早起きして走るのではなく、たいがいは夜通し仕事をして、寝る前にひとっ走りという感じだ。 シャワーを浴びて、心地よい脱力感を伴いながら床につくのが大好きなのだ。
 一日分のエネルギーを全て使い果たしてから眠りたいのだ。
 早朝の空気は、都内でもまだあまり排気ガスが乱れ飛んでいない。
 キメの細かさを感じる冷たい空気を肺の中いっぱいに取り込み、それが血液に乗って全身へと送り届けられる。
 頭のてっぺんから指先まで、すべての細胞のドアを叩いてまわり、代わりに二酸化炭素を受け取って返ってくる。血液の中循環も活発になり、腎臓がフル稼働し徹底的に老廃物を除去する。汗腺も目いっぱいに広がり、汗が汚れを噴出してくれる。
 このごく単調な作業が実に気持ちがいい。 調子がいい日は一時間近く走ってしまう。

ランナーズハイ

ランナーズハイになるのは、いつもだいたい走り始めて30分位たった頃からだが、普段の体調管理を怠っていたり、不摂生をするとすぐに膝や足首や腰に痛みが現れる。
・・年は取りたくない。
 ある晴れた春の朝、いつものように清々しい気持ちで走っていた私は、その日とんでもない仕打ちを受けたのだ。 
 走り始めて30分。 風もなく快適で、いよいよ気分も盛り上がって来た折り返し地点付近。 体調が良いのが分かり、“よし、今日は1時間コースだな!”と決めて民家の横道を右折し、胸いっぱいに空気を吸い込んだ。 すると目に見えない何かが私の鼻の粘膜に覆いかぶさってきた。 一瞬息が止まり、のた打ち回る様にして、慌てて立ち止まった。
・・た、タバコだ!

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