タバコリーマン

年齢は私と同じぐらいか、もしくは少し若い感じで、いかにも、ついさっきまで飲んでましたと言わんばかりに上機嫌だ。 それはそれは気持ちよさそうに鼻歌を歌いながらタバコをぷかぷかとふかしながら歩いている。
 だらしなく、吐き出されたその煙は男の顔を取り巻いて、後頭部にまでまとわりついてから引き剥がされ空間に置き去りにされている。
 風がないからその場にしばらく漂って、ゆっくりと薄まって消えていく。
 しかし、目に見える煙はいつしか消えてなくなるが、匂いそのものはそう簡単には消えない。 私が近づいてゆくとやはり匂いはその場にちゃんと留まっている。
 10m・・いや、最初に匂いを感じたところからだとゆうに20mも離れているのに、こんなに強烈に残るものなのだと、改めてタバコの毒性を思い知った。
 生ゴミや糞便などの匂いなら原因の物質もはっきりしているし、そもそも有機物であって、それ自体には毒性がないからいいが、タバコのこの匂いというのは、原因が形のあるものではないし、ましてや見えない。
 しかし、臭っているということは、分子レベルで見るとそこには何らかの物質が漂っているということだ。
 あの千鳥足のサラリーマンは、20m歩くのにおそらく1分近くかかるだろう。
 1分も前にその場を通過していてるはずなのに・・・。